絵日記 日日平安 5月から7月までに読んだ本 -好日読書 vol150-
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5月から7月までに読んだ本 -好日読書 vol150-

 読書一郎です。本連載もようやく150回を迎えました。初掲載から13年。読んでくだすっている方、ありがとうございます。
 内容はかわりばえせず、最近読んだ本について書きました。ほぼ読んだ順です。


①井上荒野『あちらにいる鬼』朝日新聞出版(初版2019年2月)

 小説家の白木篤郎と長内みはるは不倫関係にある。白木の妻・笙子はそれを黙認。やがてみはるは出家、三人は独特の絆で結ばれ続ける・・
 白木のモデルは著者の父・井上光晴(「全身小説家」という映画になった方ですね)。みはるのモデルは瀬戸内寂聴。
 実の娘が父の不倫を描き、相手の寂聴さんが帯に推薦文を書いている、という何かすごいことになっているのですが、作品にスキャンダラス感はゼロ。女性たちの聡明さと美しさが描かれた品格ある小説です。


②柚月裕子『慈雨』集英社文庫(初版2019年4月 元本2016年) 『盤上の向日葵』中央公論社(初版2017年8月)

 『慈雨』は「本の雑誌が選ぶ2016年度のベスト1」。定年退職した刑事の人生をしみじみ感じる1冊。
 『盤上の向日葵』は将棋を題材にした警察小説。プロ棋士ではなく真剣師(賭け将棋で稼ぐアマチュア強豪)の話で、団鬼六の名作『真剣師・小池重明』を否応なく思い出します。
 2冊読んだ限りでは、この著者はホントに「おじさん大好き」。おじさんを描く筆が生き生きしていてすばらしいです。逆に、今どきの若者には興味がなさそうですね・・


③大澤真幸『社会学史』講談社現代新書(初版2019年3月)
 田中正人編著・香月孝史著『社会学用語図鑑』(初版2019年3月)

 『社会学史』は現代新書2500番。600ページ以上ある分厚い本です。「大澤さん独自の視点で語られた社会学史」と思いきやそうではなく、割と教科書的な内容でした。
 同じ時期に出た『社会学用語図鑑』もいい本でした。網羅的で、イラストもかわいく、両方読むと理解が深まると思います。


④山崎ナオコーラ『美しい距離』(初版2016年7月) 宮下奈都『静かな雨』文春文庫(初版2019年6月 元版2004年)

 『美しい距離』は、本ブログ管理人さんに教えてもらい読みました。サンドイッチ屋を営んでいた妻がガンに冒される。それを見舞う夫や常連たち。穏やかに死を受け入れていく夫婦の姿が美しい余韻を残します
 『静かな雨』は、たいやき屋を営む恋人が事故にあってしまう、という話。宮下さんのデビュー作だそうです。こなれていないところはあるものの、これも静かで美しい小説です。
 『風立ちぬ』以来、こういう話は書き継がれているんだなあと思いました。


⑤赤坂真理『箱の中の天皇』河出書房新社(初版2019年2月)
 赤坂憲雄『象徴天皇という物語』岩波現代文庫(初版2019年4月)
 伊藤智永『「平成の天皇」論』講談社現代新書(初版2019年4月)

 平成が終わり、令和がはじまりました。関連する本を何冊か読みました。
 
 『箱の中の天皇』は『東京プリズン』の著者が「象徴天皇とは何か」を書いた小説です。
 現実と幻想が交錯するなか、著者はマッカーサーと一緒に明仁天皇のビデオメッセージを見ます。ちょっとだけ引用します。

  ”シンボルとは、旗のようなもの”
  旗のようなもの、という言葉が、憲法第一章第一条に書かれているのだ。(中略)
  ”天皇は、日本国の旗のようなものであり、日本国と日本国民の、旗印である”(中略)
  そして天皇が、その責務を、全身全霊でしてきたというのだ。(中略)
 
 「陛下、これをお受け取りください」
  天皇に、二つの箱を差し出した。天皇と目をみかわした。深くあたたかな瞳だった。(中略)
  天皇はひとつを、わたしに返した。両手で、わたしの両手を包むように。
  わたしの手に、その手のぬくもりと大きさとやわらかさがずっと残っていた。
  父のような。母のような。涙のような。海のような。


 明仁天皇の「孤独すぎる旅」に思いをはせて、ちょっとウルッときてしまいました。
 
 『象徴天皇という物語』『箱の中~』の「学術版」ともいうべき内容。この著者の苗字も赤坂さんですが、真理さんと親戚ではないと思います。(たぶん)
 平成が始まったときに書かれた本ですが、ビデオメッセージを見て書かれた「補章」が加わって先ごろ再刊されました。
 その補章から引用します。

  天皇という制度はたしかに、西欧の世俗的な王権とは大きく隔たったものだと、あらためて思う。(中略)
  ひとりの生身の人間にたいして、現人神を演じたり、その生涯を国民のために祈りを捧げ尽くすことを強いるような制度であることの、大いなる残酷を思わずにはいられない。(中略)
  わたしの貧しい想像力がその深みに届きえないことに、もどかしさと無念を覚えている。


 『「平成の天皇」論』は、毎日新聞の記者が書いた「ジャーナリズム版」
 「リベラルな天皇家 vs 日本会議・靖国神社」という構図がわかります。平成の天皇家が「象徴とは何か」を熟慮のうえ、明確な意図をもって活動されてきたことが理解できる本です。


⑥三浦瑠璃『21世紀の戦争と平和』新潮社(初版2019年1月)

 テレビでよく拝見する三浦さんの本。「徴兵制を復活させろ」という、一見ビックリするようなことを言っています。
 背後にあるのは「衆愚論」「ポピュリズムに対する警戒心」ですね。
 戦場に行く兵士が自分たちとまったく関係のない人たちだと、国民は戦争を支持しやすくなる。徴兵制になり「自分たちが動員される」となればもっと慎重になるのではないか。
 確かにそうかもしれません。「民主主義=無条件に善」という図式は疑ってかからくてはいけない。ただ、その解が「徴兵制」と言われると、うーん・・とはなってしまいますね。何か答えはあるはずです。

⑦金原ひとみ『アタラクシア』集英社(初版2019年5月)
 山田昌弘『結婚不要社会』朝日新書(初版2019年5月)
 綿矢りさ『生のみ生のままで』集英社(初版2019年7月)

 綿矢さんと金原さんは、かつて芥川賞を同時受賞されました。あれから15年。お二人の新作があいついで刊行されました。どちらも傑作です。

 『アタラクシア』は三組の夫婦を描いた長編。三組とも、不倫していたりDVがあったり、まったく幸せではない。すれ違い、傷つけあう夫婦のさまがリアルです。
 全編に漂うヒリヒリするような緊張感はただごとではなく、最後まで出口も見当たらず、激辛カレーを水なしで食べたような読後感です。
 『結婚不要社会』は『アタラクシア』の理論編ともいうべき内容。「これからはもう結婚しなくていいんじゃないの?」という気持ちになります。

 『生のみ生のままで』は女性同士の恋愛を描いた上下巻の大作。『手のひらの京』が「綿矢版・細雪」なら本作は「綿矢版・卍」でしょう。
 性描写も多いのに、その実驚くほどストレートな「純愛小説」です。一気に読まされ、最後は主役二人の幸せを願わずにはいられなくなりました。名作です。


⑧今村夏子『むらさきのスカートの女』朝日新聞出版(初版2019年6月)

 前回も取り上げた今村さんの新作。
 いや、これもすごい。すごいとしか言えないですね。
 全編コメディタッチ。笑って読んでいるうちに風景が少しずつ歪んできて、気づいた時には狂った世界に入り込んでいる。そして、最後まで読むと「もしかして狂っているのは自分たちの方かも・・」という気にさせられる。他ではまず味わえない読書体験です。

 サラッと書かれているのもすごい。小説の技法で「信頼できない語り手」というのがあって、今村さんはこれの名手です。本作ではミステリばりの「叙述トリック」まで使われています。ただ、そういう技巧を一切感じさせず、自然に書き流していそうに見えるところがすごい。
 この先、新しい世界観を書いてくれるのか、書ける人なのか。期待と心配が両方あります。

 本作は芥川賞にノミネートされました。他のノミネート作は読んでいないのですが、これが負けるとはちょっと想像しづらい。たぶん受賞すると思います。


⑩内澤旬子『ストーカーとの七〇〇日戦争』文藝春秋(初版2019年5月)

 『世界屠畜紀行』など、一風かわったノンフィクションを書かれている内澤さん。小豆島に引越して、そこで交際した男性からストーカー被害を受けていた・・その一部始終を書いた本です。
 「こんなことまで書いて大丈夫なの?」と心配になってしまう赤裸々すぎる内容。ストーカーの恐怖、むずかしい立場の警察、「当たりはずれ」のある弁護士・・ちょっと類書がないと思います。


⑪江國香織『彼女たちの場合は』集英社(初版2019年5月)

 14歳の礼那と17歳の逸佳は、親に黙ってアメリカ横断旅行に出かける。行く先々でさまざまな出会いがあり・・
 名人・江國さんの文章芸をただ堪能する、という小説です。登場人物たちは生き生きと動き、アメリカの風景もくっきりと見えてくる。いつまでも小説世界に浸っていたい、という気にさせられます。
 サイモン&ガーファンクルの「アメリカ」という曲を思い出しました。


 長くなりました・・最後まで読んでくだすってありがとうございます。また151回目でお会いしましょう。(読書一郎)
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[ 2019/07/16 10:56 ] 好日読書 | TB(0) | CM(0)
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