絵日記 日日平安 2020年03月25日
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『サル化する世界』内田樹

 久しぶりに内田樹の本を読んだら非常におもしろかった。

 ひとつが「比較敗戦論のために」という論考で、白井聡著『永続敗戦論』の「敗戦を否認するがゆえに敗北が際限なく続く」という日本の病に関する論考を一歩進めて、「フランスは実は敗戦国」「イタリアは戦勝国」、そして日本はいつまでも敗戦を受け入れられず、歴史を昇華しきれないところに居つづけているというのが興味深い。

 たしかにアメリカは「ベトナム戦争の敗戦」ですらすぐに受け入れ、映画「タクシードライバー」や「ディア・ハンター」、「ランボー」等で歴史としてかみ砕いてしまう。時の権力者、為政者をすぐに悪者にできる。たしかに日本人はいまだに太平洋戦争すらきちんと歴史化できていないし、たとえば東日本大震災さえも「ただただ忘れる」だけで歴史化しようとしない。

 たとえば、薩摩長州と庄内会津はどちらも同じ「官軍」と「賊軍」である。ただ、庄内は西郷の率いる薩摩兵の前に降伏したが「西郷は敗軍の人たちを非常に丁重に扱った。死者を弔い、経済的な支援をした」
 一方、長州藩に屈服した会津藩においては、「長州藩は会津の敗軍の人々を供養しなかった。死者の埋葬さえ許さず、長い間、さらしものにしさえした」

 つまりは、「庄内においては、勝者が敗者に一掬の涙を注いだ。すると、恨みが消え、信頼と敬意が生まれた」。一方、会津と長州の間には、「戊辰戦争から150年経った今もまだ深い溝が残ったまま」である。
 同じように、靖国神社問題がもめる一因は、官軍しか弔っていないこと、つまりはいまだ「歴史」にすらなっていない(その差別が)「現在進行形」のことだからである。

 要は「本当は何があったか」をきちんと明らかにしないで「知らないふり」をし続けて、謝ることも弔うこともなおざりにして「国民の物語」がどんどん薄っぺらくなっていく。それが日本の最大の弱みだということである。


 この本でもう一つおもしろかったのが、「論理国語」がくだらない教科であるという論考である。
 「論理国語」とは従来の「現代文」を「論理国語」と「文学国語」に分けて、「論理国語」を子どもに教育していこうという考えで、要は「契約書や例規集を読める程度の実践的な国語」を教えていればいい、という文科省教育の主張なのだが、これはあまりに愚鈍である。

 「論理的に」理屈を追っていけばスラスラと「正解」にたどり着くのが「論理的思考」だというのは大間違いで、「論理というものは跳躍するもの」である。人間が論理的に思考するために必要なのは、実は「跳躍」への「勇気」なのであり、我々が「知性」と呼んでいるのは、「知識とか情報とか技能とかいう定量的なものじゃない、むしろ、疾走感とかグルーヴ感とか跳躍力とか、そういう力動的なもの」なのである。

 子どもたちが中等教育で学ぶべきことは たった一つ「人間が知性的であるということはすごく楽しい」ということであり、知性的であることは「飛ぶ」こと。

 「論理国語」がくだらない教科であるのは、そこで知的な高揚や疾走感を味わうことがまったく求められていないこと。そして何よりも、「勇気を持て」という論理的に思考するために最も大切なメッセージを伝える気がかけらもないことである。

 そしてこの問題は「論理国語」だけでなく、「教育」全体を覆う「実学教育」(実用的なことだけ教育しておけばいい、余計なことは考えるな、という愚民政策)にも通じることである。

 最後に筆者は、この愚民教育を奨励する「官僚のメンタリティ」をうまく表現しているのでそのまま引用する。

 官僚というのは「恐怖心を持つこと」「怯えること」「上の顔色を窺うこと」に熟達した人たちが出世する仕組みです。だから、彼らにとっては「勇気を持たなかったこと」が成功体験として記憶されている。教育政策が子どもたちに「恐怖心を植え付ける」ことにたいへん熱心ではあるけれど、「勇気を持たせること」にはまったく関心がないのは、官僚たち自身の実体験がそう思わせているのです。怯える人間が成功するというのは彼ら自身の偽らざる実感なんだと思います。


 まさに、コロナウイルス下のわが国のすがたである。(管理人)

20200325
180万の翌日に送られてきたハードコピー。まさに「論理が跳躍した人間しか買えない」すごい馬券なのであった。残高200万超えらしい(笑)。
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[ 2020/03/25 10:37 ] | TB(0) | CM(0)
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