絵日記 日日平安 2013年10月01日
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『捨て童子・松平忠輝』隆慶一郎

 『影武者徳川家康』で「家康影武者説」の壮大な物語を描く前の、「家康生存説」で書かれた小説。

 主人公は家康の第6子松平忠輝。幼いころの容貌の怪異さから「鬼っ子」と呼ばれ疎まれてきたのだが、この人物の「特異さ」「凄さ」「世界人たる世界観」など、突き抜けた人物像を描き、矮小で愚鈍で小さくてどうしようもない「敵・秀忠」と闘う。秀忠と闘うのは上の作品「影武者」家康と同じ構図だが、こちらは「徳川幕府永遠のお目付役」として歴史から隠されていく。

 その人物像は、家康と忠輝の下記の会話で表現されている。秀忠がどうして忠輝を殺そうとするのか、家康が語る場面だ。

「確かにお前は誰の邪魔もしない。だがそれは邪魔をする必要がないからなんだ。お前には人にぬきんでた異常な才能があり、大抵のことには負けぬ強い生命力がある。だから誰の邪魔をしなくても、常人より遙か高い、誰もいない空を悠々と飛んで行けるんだ。だがその空の下には、人々がひしめき合っている地べたがある。その地べたで押し合いへし合いしている人間たちの眼にお前がどう映るか判るか」
 忠輝は首を振った。
「殺してやりたいほど憎たらしく見えるのさ」
 家康が切り棄てるようにいう。
「まして秀忠にとってはお前はこの上なく恐ろしい生き物だ」


 そして、秀忠に貶められる「悲劇」の忠輝を取り巻くのは、「影武者」家康と同じ傀儡子、公界、道々の輩……等、隆作品おなじみの「被差別民」だ。

 この人物が歴史から隠されたのは30歳くらいのころで、この物語はここで終わっている。実際の忠輝は92歳まで生きていて、その後の60年の「流謫の生涯」を隆慶一郎は書こうとしていた。

 著者の逝去でそれはかなわぬものになったのだが、それはそれは素晴らしい作品になったのではないか。惜しまれてならない。(管理人)
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[ 2013/10/01 19:09 ] | TB(0) | CM(0)
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