土屋恵一郎『怪物ベンサム 快楽主義者の予言した社会』(講談社学術文庫)を読みました。
ベンサムは18世紀の哲学者。「最大多数の最大幸福」とか「功利主義」とか、高校の社会科で習ったような習わないようなという感じの人です。
しかし、考えてみると、今の日本で「政策」とかを決める場合、より多くの人が便利になるように、快適になるように、ということをまず考えると思うのです。
まさに「最大多数の最大幸福」。これは「現代の政治を動かす根本原理」と言えるのではないでしょうか。
また、コンビニエンスストアなども「より便利」を追求した結果生まれたものでしょう。「車社会」も「大型ショッピングモール」もそう。「国道16号化」「ジャスコ化」といった都市風景も「最大多数の最大幸福」を追求した結果出てきたと言えなくもない。
美しくはないが便利で快適。こうした街の風景を作り出した源流は、もしかしてベンサムかもしれないのです。
功利主義は『これからの正義の話をしよう』で、著者のサンデル先生に真っ先に否定されます。
ただ、功利主義の真価は、あの本に出てくるような倫理的な局面とはちょっと違うところで発揮され、そして実はそれがものすごく現代文明を規定している、という気がします。
というわけで、ベンサムのこと、気にはなっていたのですが、著作や解説書は現在あまり出まわっていません。本書は私にとって「待望の文庫化」(親本は1993年刊行)と言えます。
カバー裏の内容紹介から引用します。
おもしろそうでしょう?ただ残念なことに、読んでみたらこういう内容の本ではありませんでした。
この紹介文だけでなく、タイトルも副題も不適切で『ベンサムとその時代』あたりがいいように思います。
書いてあるのは、なんというか「周縁ゴシップ」的エピソードばかりで、ロンドン大学には今でもベンサムのミイラが飾ってあるとか、父親に頭が上がらなかったとか、中年になって熱烈なラブレターを書いたとか、パトロンの貴族の屋敷でこんな人たちと交流したとか、弟がロシアに行って女帝エカテリーナのもとで働いたとか、かなりあてがはずれた感じの読後感が残ります。(ゴシップもそれはそれでおもしろいのですが)
おそらく著者の関心は、ベンサムの思想(=きわめて現代的な思想)が、ベンサム本人の人生や当時の時代背景からどのように影響を受けて作られたか、にあるようです。だから、と言うべきなのか、通読しても、ベンサムの思想が体系だててわかるわけではありません。
それでも、そのすごさの片鱗だけはうかがえます。
たとえば「同性愛擁護」。
当時のイギリスでは同性愛者は厳罰で、なんと死刑!だったそうです。
ベンサムは功利主義の原理にのっとり「それはいかなる人にも苦痛をもたらさず、反対に快感をもたらす。だから同性愛に罪はない」と草稿に書いているそうです。(正式に発表すると大騒ぎになりそうなので発表できなかったらしい)
あるいは「間接的立法」。これは、犯罪に対する刑罰を定めた「直接的立法」とは異なり、社会を犯罪が置きにくい環境に変革していく、という発想です。(強い酒にかわるものとして)コーヒーや紅茶をもっと広めろ、とか、楽しいゲームを発明しろ、とか、芸術や音楽を奨励しろ、劇場などをもっと作れ、とか。
本文から引用すると「欲望の組織化とアミューズメントの哲学。たしかにここにディズニーランドを作り出した現代のモデルがある」
こういうところももうちょっと突っ込んでほしかったんですが・・まあ文句を言っても仕方がありません。図書館で、ベンサムの本を何冊か借りてくることにしました・・ (一応続きます)(読書一郎)
ベンサムは18世紀の哲学者。「最大多数の最大幸福」とか「功利主義」とか、高校の社会科で習ったような習わないようなという感じの人です。
しかし、考えてみると、今の日本で「政策」とかを決める場合、より多くの人が便利になるように、快適になるように、ということをまず考えると思うのです。
まさに「最大多数の最大幸福」。これは「現代の政治を動かす根本原理」と言えるのではないでしょうか。
また、コンビニエンスストアなども「より便利」を追求した結果生まれたものでしょう。「車社会」も「大型ショッピングモール」もそう。「国道16号化」「ジャスコ化」といった都市風景も「最大多数の最大幸福」を追求した結果出てきたと言えなくもない。
美しくはないが便利で快適。こうした街の風景を作り出した源流は、もしかしてベンサムかもしれないのです。
功利主義は『これからの正義の話をしよう』で、著者のサンデル先生に真っ先に否定されます。
ただ、功利主義の真価は、あの本に出てくるような倫理的な局面とはちょっと違うところで発揮され、そして実はそれがものすごく現代文明を規定している、という気がします。
というわけで、ベンサムのこと、気にはなっていたのですが、著作や解説書は現在あまり出まわっていません。本書は私にとって「待望の文庫化」(親本は1993年刊行)と言えます。
カバー裏の内容紹介から引用します。
功利主義者、パノプチコン創案者。(中略)この怪物の構想は現代にも生きている。死刑廃止、動物愛護、都市衛生、同性愛擁護、さらには チューブによる社会通話システム、冷蔵庫・・・。人間を快感と欲望の中に配置し、自我の解体をも試みた男。一九世紀最大の奇人啓蒙思想家の社会設計図を解読し、その背景を解明する。
おもしろそうでしょう?ただ残念なことに、読んでみたらこういう内容の本ではありませんでした。
この紹介文だけでなく、タイトルも副題も不適切で『ベンサムとその時代』あたりがいいように思います。
書いてあるのは、なんというか「周縁ゴシップ」的エピソードばかりで、ロンドン大学には今でもベンサムのミイラが飾ってあるとか、父親に頭が上がらなかったとか、中年になって熱烈なラブレターを書いたとか、パトロンの貴族の屋敷でこんな人たちと交流したとか、弟がロシアに行って女帝エカテリーナのもとで働いたとか、かなりあてがはずれた感じの読後感が残ります。(ゴシップもそれはそれでおもしろいのですが)
おそらく著者の関心は、ベンサムの思想(=きわめて現代的な思想)が、ベンサム本人の人生や当時の時代背景からどのように影響を受けて作られたか、にあるようです。だから、と言うべきなのか、通読しても、ベンサムの思想が体系だててわかるわけではありません。
それでも、そのすごさの片鱗だけはうかがえます。
たとえば「同性愛擁護」。
当時のイギリスでは同性愛者は厳罰で、なんと死刑!だったそうです。
ベンサムは功利主義の原理にのっとり「それはいかなる人にも苦痛をもたらさず、反対に快感をもたらす。だから同性愛に罪はない」と草稿に書いているそうです。(正式に発表すると大騒ぎになりそうなので発表できなかったらしい)
あるいは「間接的立法」。これは、犯罪に対する刑罰を定めた「直接的立法」とは異なり、社会を犯罪が置きにくい環境に変革していく、という発想です。(強い酒にかわるものとして)コーヒーや紅茶をもっと広めろ、とか、楽しいゲームを発明しろ、とか、芸術や音楽を奨励しろ、劇場などをもっと作れ、とか。
本文から引用すると「欲望の組織化とアミューズメントの哲学。たしかにここにディズニーランドを作り出した現代のモデルがある」
こういうところももうちょっと突っ込んでほしかったんですが・・まあ文句を言っても仕方がありません。図書館で、ベンサムの本を何冊か借りてくることにしました・・ (一応続きます)(読書一郎)
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