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本屋大賞を予想する -好日読書 vol153-

 読書一郎です。昨年に続き、今年も本屋大賞の予想をしてみました。
 http://ci5.blog20.fc2.com/blog-entry-2038.html

 前回のブログにも書きましたが、
 今回は『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がダントツでした。ただし、本作は「ノンフィクション」。本屋大賞は「小説限定」なので「対象外」になります。(この作品は、すでに本屋大賞主催の「2019年ノンフィクション本大賞」を受賞済)「ヤングマン」や「聖母たちのララバイ」が「レコード大賞」のノミネートを外れたようなものですね。
 なので、今回は「本命なし」。正直、予想が難しいです。


 具体的な予想の前に「本屋大賞はどういう作品が取るのか」考えてみました。
 いくつかの「条件」があると思うのです。

①その作家の「その時点での最高傑作」であること
 本屋大賞は、全国の書店員さんたちの「投票」で決まります。直木賞のように、「詮衡会の空気」とか「初ノミネートだから見送る」とか、そういうことはありません。
 基本的には「実力主義」と言ってよいでしょう。

 最大のポイントは「その作家のその時点での最高傑作」であること。
 たとえば伊坂幸太郎さんなら受賞作『ゴールデンスランバー』以上、三浦しをんさんは『舟を編む』以上の作品が要求されてしまう。厳しいですね。(読者とはそういうわがままなものなのかもしれませんね)
 唯一二度受賞したのが恩田陸さん。『夜のピクニック』で一度目、それを凌駕する『蜜蜂と遠雷』で二度目を受賞されました。

②できれば、ブレイクしていない作家の作品であること
 ①とも関連しますが「できれば、ブレイクしていない作家の作品」であること。
 本屋大賞は文字通り「書店員さんの投票」で決まる賞です。
 書店員さんたちは「この賞をきっかけに新たなスター作家を作りたい」という思いがあると思うのです。
 昨年の瀬尾まいこさんのように「よい作品を書いているのにもう一つブレイクしていない」方はそれだけで大本命。大家の場合は、恩田さんや『かがみの孤城』で受賞された辻村深月さんのように「文句なしの大傑作」でないと難しいかなあ、という印象です。

③誰が読んでも楽しく読める小説であること(いわゆる「問題作」ではないこと)
 「本屋大賞」を受賞すると、本は何十万部も売れ、多くの方が手に取ってくれます。その「大衆性」ゆえに「誰が読んでも楽しめる」小説が選ばれる傾向にあります。
 書店員さんは「本をすすめるプロ」でもあるので、自分の好みや評価は脇に置き「お客様が読んでどう思うか」を気にして投票されるのでしょう。
 「ハッピーエンド」「前向きになれる小説」は絶対条件かな、という気がします。

④他の賞を受賞している、ランキング上位に入っていること
 「アカデミー賞」の前に「ゴールデングローブ賞」があるように、本屋大賞にも「前哨戦」があります。
 私が参考にしているのは「キノベス」「ブランチブック大賞」
 「キノベス」は紀伊國屋書店主催のランキング。すべての本からベスト30を選ぶ「キノベス」と、人文書限定の「紀伊國屋じんぶん大賞」があります。(ちなみに今年の1位は『ぼくはイエロー・・』)
 「ブランチブック大賞」は、テレビ番組「王様のブランチ」が選ぶ「今年の1冊」。
 特にここ数年、本屋大賞と親和性が高いで。


 以上を踏まえて、今年のノミネート作を見てみましょう。

1.砥上裕將『線は、僕を描く』講談社
 キノベス6位。ブランチブック大賞受賞作。
 水墨画を題材にした青春小説。今回、もっとも「本屋大賞向き」の作品だと思います。
 著者は水墨画家で、本作が小説のデビュー作。ストーリーがちょっとご都合主義だったり、登場人物がやや平板な印象だったり、こなれていないところも目立つのですが、それを補って余りある魅力を持つ作品だと思います。さわやかな読後感は今回随一で、本命◎。


2.川越宗一『熱源』文藝春秋
 直木賞受賞作。キノベス30位。
 樺太(サハリン)のアイヌを描いた歴史ロマン。NHKがスペシャルドラマにしてくれそうな雄大な小説です。デビュー2作目だそうですが堂々たる筆致。欠点は「ページ数が少ないこと」でしょうか。上下巻でじっくり読みたいと思いました。
 また、この小説は直木賞を受賞しました。直木賞と本屋大賞のW受賞は、過去『蜜蜂と遠雷』のみ。どうしてもあれと比較することになり、そこもマイナスポイントかも。とは言っても小説の力は疑いなく、対抗○。


3.小川糸『ライオンのおやつ』ポプラ社
 キノベス10位。
 海辺のホスピスを舞台にした淡彩画のような小説。
 個人的な事情でこの本のコメントは避けますが、上位に入ってほしいなあ・・
 「理想の死」というテーマから見ても、大賞は厳しいか、と思いますが、希望をこめて穴△。


4.横山秀夫『ノースライト』新潮社
 キノベス3位。週刊文春ミステリー・ベスト10 1位。このミス2位。
 横山秀夫6年ぶりの新作。というだけで十分ですね。言うまでもなく名作。
 ただ、横山さんは『64』でも大賞を取っていません(この年の大賞は『海賊と呼ばれた男』)。本作が『64』より上か、というとどうかなあ・・と思いますし、横山さんほどの大家に今さら票は投じないだろう、という気もします。ただ、この混戦ならもしかして・・というのはあり、大穴▲。


5.凪良ゆう『流浪の月』新潮社
 キノベス7位。
 この小説は衝撃的でした。とてつもない才能を感じる作者です。(同時期に出た『わたしの美しい庭』も傑作です)
 個人的にはこの中でいちばん好きな小説なのですが「読んで前向きになる」という話ではなく、ちょっと本屋大賞のテイストとは合わないかなあ、と思います。


6.川上未映子『夏物語』文藝春秋
 毎日出版文化賞受賞作。
 骨太なテーマを描き切った大傑作。「世界十数か国で翻訳決定」も納得です。作者のとらえている射程が深く、読みながらいろいろなことを考えさせられました。
 ただ万人にアピールするテーマではありません。読者によって好悪がはっきりわかれる問題作、と言えると思います。


7.相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』講談社
8.青柳碧人『むかしむかし、死体がありました』双葉社

 『medium』はこのミス1位。キノベス11位。
 『むかしむかし~』はキノベス2位。
 どちらも本格ミステリ。しかもかなり技巧的な作品です。(本格ミステリはどんどん技巧的になっていきますね・・)
 ミステリとしては傑作ですが、いわゆる「小説的興趣」には乏しいです。これらがノミネートされるところに、本格ミステリの読者層の広がりを感じます。綾辻さんや京極さんたちのおかげですね。


9.早見和真『店長がバカすぎて』角川春樹事務所
 キノベス20位。
 書店員さんのお仕事小説。この中では地味な印象ですが、実はすばらしい作品。
 店長が単なるバカなのか、バカに見せて実はすごい人なのか、最後まで読んでもよくわからない。でも謎めいた魅力だけは伝わってくる。というなんというか「魔術的な筆致」が楽しめます。


10.知念実希人『ムゲンのi』双葉社
 病院を舞台にした、ファンタジー風味のミステリ。
 医療小説、ファンタジー、ミステリ、家族愛・・いろいろな要素を持った作品で、本屋大賞向けに「傾向と対策」をしたか、という邪推もしてしまいます。
 最初はファンタジー風味が強すぎて抵抗がありましたが、後半は怒涛の展開で楽しめます。ただ、ちょっと好みがわかれるかなあ・・とは思いました。

 このブログを書いている3/1が投票締め切り、4/7が発表です。
 楽しみに待ちたいと思います。(読書一郎)



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[ 2020/03/02 12:50 ] 好日読書 | TB(0) | CM(2)

2019年のベストテン -好日読書 vol152-

 あけましておめでとうございます。読書一郎です。
 穏やかなお天気のお正月でしたね。

 今回は「2019年ベストテン」です。
 毎年、6時間くらいかけて書いているのですが、今回はアッという間に完成しました。
 去年の7月から、読んだ本の感想を投稿する「読書メーター」を使っており、その「おすすめランキング」機能を使うと一瞬で完成。こちらです。
 https://bookmeter.com/users/1028166/bookcases

 1~10位が小説とエッセイ、11~20位がノンフィクションです。毎年そうですが、順位は適当です。また「2019年の新刊」に限定しています。

 スマホだと個々の感想が見られない感じなので、感想はこちらから。
 https://bookmeter.com/users/1028166/reviews

 「読書メーター」導入以前の感想はこちらです。今年はマメに書いていましたね・・
 2月~4月 http://ci5.blog20.fc2.com/blog-entry-2060.html
 5月~7月 http://ci5.blog20.fc2.com/blog-entry-2097.html


 今回「本格ミステリが昔ほど楽しめなくなってきたな・・」としみじみ思いました。
 『medium』『魔眼の匣の殺人』『紅蓮館の殺人』・・各種ミステリーランキング上位の作品も、読んではいるのですが「おもしろかったはおもしろかったかな・・」という感じでした。年齢のせいですね、きっと。
 この中では『魔眼~』がベストで、前作よりよかった。今村さんは次も読みます。
 『Iの悲劇』『刀と傘』はよかったのですが「ミステリ以外の部分」がよかった・・
 私の「本格ミステリベストワン」は『予言の島』ですね。

 ちなみに『medium』は、山田風太郎『明治断頭台』の「本歌取り」をした小説です。探偵役の名前が「翡翠ちゃん」なのも『明治断頭台』のもじりです。
 書評等であまり指摘されていないのは「指摘すると両方の小説のトリックがバレてしまうから」。なので、ホントは書いちゃまずいのですが(笑)当ブログ読者はミステリ好きの方が少ないと思うので、お許しください。(じゃあ書かなくてもいい気もしますが・・)
 なお『刀と傘』も『明治断頭台』のフォーマットを一部なぞっています(こちらは書いても大丈夫)。山田風太郎の影響の大きさがわかりますね。

 さて、今年の「本屋大賞」も、まもなく候補作が発表されます。そうしたら予想原稿をアップしようと思っております。
 (今年は「決定打なし」という印象ですね・・『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がダントツなのですが、残念ながらこれは「ノンフィクション」。本屋大賞は「小説限定」で、この作品は、すでに本屋大賞主催の「2019年ノンフィクション本大賞」を受賞済です)

 今年もよろしくお願いします。(読書一郎)
[ 2020/01/07 14:23 ] 好日読書 | TB(0) | CM(0)

8月に読んだ本 -好日読書 vol151-

 8月に読んだ本の感想を書きました。
 今回、ためしに「読書メーター」というサイトに登録して書いてみました。

 https://bookmeter.com/users/1028166/reviews

 「読書メーター」はPCでも使えますが、スマホアプリもあります。
 今回はすべてスマホで書いています。電車の中などで本を読み終わったら即感想を投稿しました。

 去年まで「今年のベスト10」という題で年に1回だけ更新していたのですが、いざ書くときには本の内容を忘れていたりして、あまりよろしくありませんでした。
 このやりかたならさすがに覚えています。

 その他の長所は
 ・書影や書誌情報が自動で入る。
 ・FBでブロックされる心配がない(笑)。

 短所もあって、
 ・スマホで書くので長い文章は書けない。
 ・当ブログは「その本を読んでいない人向け」に書いていたが、読書メーターは基本「読んだ人」向け。必然的に書き方が変わる。
 ・読んだ本が全部載る(セレクトされない)。「はずれ」の本も入ってしまう。
 ・順番は完全に読んだ順になる。編集不可。
 ・原則本の感想のみ。映画等はなし。

 しばらく使ってみようと思います。

 今月のベスト3は『夏物語』『安楽死を遂げた日本人』『AIに負けない子どもを育てる』ですね。
 引き続きよろしくお願いします。(読書一郎)
[ 2019/09/11 11:48 ] 好日読書 | TB(0) | CM(0)

5月から7月までに読んだ本 -好日読書 vol150-

 読書一郎です。本連載もようやく150回を迎えました。初掲載から13年。読んでくだすっている方、ありがとうございます。
 内容はかわりばえせず、最近読んだ本について書きました。ほぼ読んだ順です。


①井上荒野『あちらにいる鬼』朝日新聞出版(初版2019年2月)

 小説家の白木篤郎と長内みはるは不倫関係にある。白木の妻・笙子はそれを黙認。やがてみはるは出家、三人は独特の絆で結ばれ続ける・・
 白木のモデルは著者の父・井上光晴(「全身小説家」という映画になった方ですね)。みはるのモデルは瀬戸内寂聴。
 実の娘が父の不倫を描き、相手の寂聴さんが帯に推薦文を書いている、という何かすごいことになっているのですが、作品にスキャンダラス感はゼロ。女性たちの聡明さと美しさが描かれた品格ある小説です。


②柚月裕子『慈雨』集英社文庫(初版2019年4月 元本2016年) 『盤上の向日葵』中央公論社(初版2017年8月)

 『慈雨』は「本の雑誌が選ぶ2016年度のベスト1」。定年退職した刑事の人生をしみじみ感じる1冊。
 『盤上の向日葵』は将棋を題材にした警察小説。プロ棋士ではなく真剣師(賭け将棋で稼ぐアマチュア強豪)の話で、団鬼六の名作『真剣師・小池重明』を否応なく思い出します。
 2冊読んだ限りでは、この著者はホントに「おじさん大好き」。おじさんを描く筆が生き生きしていてすばらしいです。逆に、今どきの若者には興味がなさそうですね・・


③大澤真幸『社会学史』講談社現代新書(初版2019年3月)
 田中正人編著・香月孝史著『社会学用語図鑑』(初版2019年3月)

 『社会学史』は現代新書2500番。600ページ以上ある分厚い本です。「大澤さん独自の視点で語られた社会学史」と思いきやそうではなく、割と教科書的な内容でした。
 同じ時期に出た『社会学用語図鑑』もいい本でした。網羅的で、イラストもかわいく、両方読むと理解が深まると思います。


④山崎ナオコーラ『美しい距離』(初版2016年7月) 宮下奈都『静かな雨』文春文庫(初版2019年6月 元版2004年)

 『美しい距離』は、本ブログ管理人さんに教えてもらい読みました。サンドイッチ屋を営んでいた妻がガンに冒される。それを見舞う夫や常連たち。穏やかに死を受け入れていく夫婦の姿が美しい余韻を残します
 『静かな雨』は、たいやき屋を営む恋人が事故にあってしまう、という話。宮下さんのデビュー作だそうです。こなれていないところはあるものの、これも静かで美しい小説です。
 『風立ちぬ』以来、こういう話は書き継がれているんだなあと思いました。


⑤赤坂真理『箱の中の天皇』河出書房新社(初版2019年2月)
 赤坂憲雄『象徴天皇という物語』岩波現代文庫(初版2019年4月)
 伊藤智永『「平成の天皇」論』講談社現代新書(初版2019年4月)

 平成が終わり、令和がはじまりました。関連する本を何冊か読みました。
 
 『箱の中の天皇』は『東京プリズン』の著者が「象徴天皇とは何か」を書いた小説です。
 現実と幻想が交錯するなか、著者はマッカーサーと一緒に明仁天皇のビデオメッセージを見ます。ちょっとだけ引用します。

  ”シンボルとは、旗のようなもの”
  旗のようなもの、という言葉が、憲法第一章第一条に書かれているのだ。(中略)
  ”天皇は、日本国の旗のようなものであり、日本国と日本国民の、旗印である”(中略)
  そして天皇が、その責務を、全身全霊でしてきたというのだ。(中略)
 
 「陛下、これをお受け取りください」
  天皇に、二つの箱を差し出した。天皇と目をみかわした。深くあたたかな瞳だった。(中略)
  天皇はひとつを、わたしに返した。両手で、わたしの両手を包むように。
  わたしの手に、その手のぬくもりと大きさとやわらかさがずっと残っていた。
  父のような。母のような。涙のような。海のような。


 明仁天皇の「孤独すぎる旅」に思いをはせて、ちょっとウルッときてしまいました。
 
 『象徴天皇という物語』『箱の中~』の「学術版」ともいうべき内容。この著者の苗字も赤坂さんですが、真理さんと親戚ではないと思います。(たぶん)
 平成が始まったときに書かれた本ですが、ビデオメッセージを見て書かれた「補章」が加わって先ごろ再刊されました。
 その補章から引用します。

  天皇という制度はたしかに、西欧の世俗的な王権とは大きく隔たったものだと、あらためて思う。(中略)
  ひとりの生身の人間にたいして、現人神を演じたり、その生涯を国民のために祈りを捧げ尽くすことを強いるような制度であることの、大いなる残酷を思わずにはいられない。(中略)
  わたしの貧しい想像力がその深みに届きえないことに、もどかしさと無念を覚えている。


 『「平成の天皇」論』は、毎日新聞の記者が書いた「ジャーナリズム版」
 「リベラルな天皇家 vs 日本会議・靖国神社」という構図がわかります。平成の天皇家が「象徴とは何か」を熟慮のうえ、明確な意図をもって活動されてきたことが理解できる本です。


⑥三浦瑠璃『21世紀の戦争と平和』新潮社(初版2019年1月)

 テレビでよく拝見する三浦さんの本。「徴兵制を復活させろ」という、一見ビックリするようなことを言っています。
 背後にあるのは「衆愚論」「ポピュリズムに対する警戒心」ですね。
 戦場に行く兵士が自分たちとまったく関係のない人たちだと、国民は戦争を支持しやすくなる。徴兵制になり「自分たちが動員される」となればもっと慎重になるのではないか。
 確かにそうかもしれません。「民主主義=無条件に善」という図式は疑ってかからくてはいけない。ただ、その解が「徴兵制」と言われると、うーん・・とはなってしまいますね。何か答えはあるはずです。

⑦金原ひとみ『アタラクシア』集英社(初版2019年5月)
 山田昌弘『結婚不要社会』朝日新書(初版2019年5月)
 綿矢りさ『生のみ生のままで』集英社(初版2019年7月)

 綿矢さんと金原さんは、かつて芥川賞を同時受賞されました。あれから15年。お二人の新作があいついで刊行されました。どちらも傑作です。

 『アタラクシア』は三組の夫婦を描いた長編。三組とも、不倫していたりDVがあったり、まったく幸せではない。すれ違い、傷つけあう夫婦のさまがリアルです。
 全編に漂うヒリヒリするような緊張感はただごとではなく、最後まで出口も見当たらず、激辛カレーを水なしで食べたような読後感です。
 『結婚不要社会』は『アタラクシア』の理論編ともいうべき内容。「これからはもう結婚しなくていいんじゃないの?」という気持ちになります。

 『生のみ生のままで』は女性同士の恋愛を描いた上下巻の大作。『手のひらの京』が「綿矢版・細雪」なら本作は「綿矢版・卍」でしょう。
 性描写も多いのに、その実驚くほどストレートな「純愛小説」です。一気に読まされ、最後は主役二人の幸せを願わずにはいられなくなりました。名作です。


⑧今村夏子『むらさきのスカートの女』朝日新聞出版(初版2019年6月)

 前回も取り上げた今村さんの新作。
 いや、これもすごい。すごいとしか言えないですね。
 全編コメディタッチ。笑って読んでいるうちに風景が少しずつ歪んできて、気づいた時には狂った世界に入り込んでいる。そして、最後まで読むと「もしかして狂っているのは自分たちの方かも・・」という気にさせられる。他ではまず味わえない読書体験です。

 サラッと書かれているのもすごい。小説の技法で「信頼できない語り手」というのがあって、今村さんはこれの名手です。本作ではミステリばりの「叙述トリック」まで使われています。ただ、そういう技巧を一切感じさせず、自然に書き流していそうに見えるところがすごい。
 この先、新しい世界観を書いてくれるのか、書ける人なのか。期待と心配が両方あります。

 本作は芥川賞にノミネートされました。他のノミネート作は読んでいないのですが、これが負けるとはちょっと想像しづらい。たぶん受賞すると思います。


⑩内澤旬子『ストーカーとの七〇〇日戦争』文藝春秋(初版2019年5月)

 『世界屠畜紀行』など、一風かわったノンフィクションを書かれている内澤さん。小豆島に引越して、そこで交際した男性からストーカー被害を受けていた・・その一部始終を書いた本です。
 「こんなことまで書いて大丈夫なの?」と心配になってしまう赤裸々すぎる内容。ストーカーの恐怖、むずかしい立場の警察、「当たりはずれ」のある弁護士・・ちょっと類書がないと思います。


⑪江國香織『彼女たちの場合は』集英社(初版2019年5月)

 14歳の礼那と17歳の逸佳は、親に黙ってアメリカ横断旅行に出かける。行く先々でさまざまな出会いがあり・・
 名人・江國さんの文章芸をただ堪能する、という小説です。登場人物たちは生き生きと動き、アメリカの風景もくっきりと見えてくる。いつまでも小説世界に浸っていたい、という気にさせられます。
 サイモン&ガーファンクルの「アメリカ」という曲を思い出しました。


 長くなりました・・最後まで読んでくだすってありがとうございます。また151回目でお会いしましょう。(読書一郎)
[ 2019/07/16 10:56 ] 好日読書 | TB(0) | CM(0)

2月から4月までに読んだ本 -好日読書 vol149-

 読書一郎です。
 前回アップさせていただいたのが2月。その後読んだ中から、印象に残った本について書かせてもらいます。ほぼ読んだ順です。

①ハンス・ロスリングほか『ファクトフルネス』日経BP社(初版2019年1月)
 ビル・ゲイツが「大卒の希望者全員にプレゼントした」という本。全国民必読の名著だと思います。

 最初に13問のクイズが出されます。2問だけ引用します。
 「現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を終了するでしょう? A.20% B.40% C.60%」
 「世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている人子供はどのくらいいるでしょう? A.20% B.50% C.80%」

 正解はどちらもC。今、世界の貧困問題はかなり改善されているのです。
 今、世界はどうなっているか、この30年でどう変わったか。数値(ファクト)と著者自身の豊富な支援体験から、世界の「今」について、私たちの思い込みを正してくれます。


②アレクサンダー・トドロフ『第一印象の科学』みすず書房(初版2019年1月)
 心理学の先生が「第一印象はあてにならない」と主張する本。
 なるほど、という話が多くておもしろいのですが「そうは言っても顔を見りゃわかる」と思ってしまうのが根深いところです。


③真藤順丈『宝島』講談社(初版2018年6月)
 直木賞受賞。管理人さんも推奨の名作です。
 3人の主要人物を軸に、サンフランシスコ講和条約から本土返還までの20年間を描きます。
 重い話を沖縄言葉を使って軽やかに語ります。読みごたえがあります。

④今村夏子
『父と私の桜尾通り商店街』KADOKAWA(初版2019年2月)
『あひる』角川文庫(初版2019年1月 元版2016年)
『こちらあみ子』ちくま文庫(初版2014年7月 元版2011年)
『星の子』朝日新聞出版(初版2017年6月)
 小説です。今村夏子さん、今回初めて読みました。
 本になった作品はここに挙げたものがすべて。これは読んだ順です。
 最初に読んだのが、短編集『父と私の~』の冒頭「白いセーター」。これが天才的な作品。個人的には『コンビニ人間』以来の衝撃でした。

 『あひる』は「あひるを飼い始めたら子どもが家に集まるようになった」という話。そう聞くとほのぼのとした感じですが、まったく違い、読後には不穏な印象だけが残る、という、なんというか「天才にしか書けない小説」です。
 今村さん、先日文芸誌に新作を発表してくれていて、単行本化を楽しみに待ちたいと思います。


⑤佐々木典士『ぼくたちにもうモノは必要ない』ちくま文庫(初版2019年2月 元版2015年)
 「ミニマリスト」という「モノをほとんど持たない」主義の方たちがいます。
 サラリーマンだった著者がミニマリストとなり、どんどんモノを処分、部屋はスッキリ、仕事もやめ、田舎に移住・・その思索と行動を記録した本です。
 私もこの本に影響されて、洋服と本を大量に処分しました。「モノを処分する」のは独特の快感を生みますね。


⑥木庭顕『誰のために法は生まれた』朝日出版社(初版2018年7月)
 今年の「紀伊國屋じんぶん大賞」第1位受賞作。(「人文書」の「本屋大賞」のようなものですね)
 クセのありそうな著者ですが、内容はおもしろいです。
 テーマはズバリ「法とは何か」。いわゆる「世間」「地元の大物」「黒幕」から「一個人」を守るのが法である、というのが答えです。凛とした思想が伝わってきて、勇気づけられる本です。


⑦辻村深月『傲慢と善良』朝日新聞出版(初版2019年3月)
昨年の本屋大賞受賞者・辻村さんの新作
 『高慢と偏見』という有名な小説がありますが、それの現代日本版&辻村版です。
 仕掛けは比較的早くわかるのですが、そこからが意外な方向に展開します。「いい話」に着地させる剛腕ぶりがすごい。辻村さんの実力がよくわかります。


⑧澤宮優『三塁ベースコーチが野球を変える』河出文庫(初版2018年12月 元版2013年)
 プロ野球の「三塁ベースコーチ」のことを書いたドキュメント。
 初めて知ったのですが、三塁ベースコーチは「攻撃時の監督代行」と言われるほど大事なポジションなのだそうです。
 インタビューを中心に、その緻密な仕事ぶりが描かれます。球場に行っても、三塁コーチの様子をチラチラ見るようになりました。


⑨今村昌弘『魔眼の匣の殺人』東京創元社(初版2019年2月)
⑩澤村伊智『予言の島』KADOKAWA(初版2019年3月)
 「予言」をテーマにしたミステリが二作。どちらも傑作です。
 『魔眼~』は『屍人荘の殺人』で話題をさらった今村さんの第二作。
 とてもいいです。カチッとした本格で、キャラクターもこなれてきました。私は第一作よりこちらの方が好きですね。

 『予言の島』の澤村さん、初めて読んだのですが こちらもすごくいいです。
 いかにもなオカルト風に始まりながら、途中で本格ミステリに転換、しかし最後はやっぱりホラーになります。
 あっと驚くトリックも登場します。(別ジャンルの作家が書かれた某名作とちょっと似ていますね)


⑪木皿泉『カゲロボ』新潮社(初版2019年3月)
 今年の本屋大賞にもノミネートされた木皿さんの新刊。
 ちょっと微妙でした。もちろんうまいのですが「近未来SF」なのか「人間ドラマ」なのか、やや中途半端な印象でした。カバーイラストがかわいいです。


⑫横山秀夫『ノースライト』新潮社(初版2019年2月)
⑬桐野夏生『とめどなく囁く』幻冬舎(初版2019年3月)
 大御所お二人の新作。
 横山さんは『64』以来6年ぶりの新作。まったくの新作ではなく、以前雑誌に連載したものを大幅に改稿したらしい。
 面白い。ただ「横山さん久々のの新作」というだけで期待値は相当上がっていて「『64』と比べると・・」という感想になってしまうのはいたしかたないところです。

 『とめどなく~』は桐野さんの新聞小説。
 ちょっと失敗作かな・・という印象です。魅力的な謎が意外に広がらず、主人公と周囲の常にかみ合わない会話が延々と続く、という感じ。ただ、その分リアリティはすごいです。


⑭吉田修一『横道世之介』毎日新聞社(初版2009年9月)
    『続横道世之介』中央公論新社(初版2019年2月)
 これも管理人さん推奨。名作青春小説の続編が10年ぶりに登場。と言っても正編も読んでおらず、これを機にまとめて読みました。
 今さら大学生の日常を読んでもなあ・・と冷めた気持ちで読み始めたのですが、世之介君の善良さにじわじわとやられてしまい、最後は感動しました。
 実は私は世之介君と同い年。(作者の吉田修一さんとも同い年です)田舎の大学でしたが、あの時代の空気感はわかります。


⑮瀬尾まいこ『傑作はまだ』ソニー・ミュージックエンタテインメント(初版2019年2月)
 今年の本屋大賞受賞者・瀬尾さんの新作。
 短い話ですが、やっぱりいいですねえ。登場人物が「悲しみや不条理さに本気で触れたいなら、小説なんて読まずに総合病院の小児病棟へ行けばいい」と語るシーンがあって、瀬尾さんの小説に対する姿勢を見る気がしました。


⑯朝倉かすみ『平場の月』光文社
 50歳の青砥は、検診に行った病院で中学時代の同級生・須藤葉子と再会する。二人は急速に親しくなるが・・
 今年のベスト1です
 私は主人公と同じ50歳。同じ東武東上線沿線に住み、同じような職場環境で長く勤務したこともあり、何か狙い撃ちにされた感じです。
 恋愛小説なのですが、朝倉さんは女性作家だけあって、男性のいやらしい目線は皆無。ヒロインが全然かわいくなくて、そこが本当に素敵で魅力的です。
 ただもう、終わり方が痛切すぎて・・読み終わって、やり場のない気持ちで数日間過ごしました。
 中年の恋愛といえば『マチネの終わりに』ですが、私は本作の方が100倍くらい好きです。


⑰カール・ホフマン『人喰い』亜紀書房(初版2019年4月)
 この本は現在読書中です。(200Pくらい進行中)
 ロックフェラー財閥の御曹司・マイケルがニューギニアで行方不明になる・・その真相を追ったドキュメントです。
 タイトルが「人喰い」、舞台は首狩り族のいるニューギニア、帯にもそれらしいことは書いてあり、何が起こったかは想像がつきますが、冒頭16ページでいきなり出てきます。著者の関心は「何が起こったか」より「なぜ、どういう状況で起こったか」にあるようです。
 『平場の月』の後に読むとあまりの落差にクラクラしますね・・(読書一郎)
[ 2019/04/19 16:53 ] 好日読書 | TB(0) | CM(0)
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